中野信子

 アルギニンバソプレシン(AVP)という物質なんですが、脳内ホルモンの一種であるバソプレシンにアルギニンというアミノ酸がくっついたものです。バソプレシンは血管を収縮させて血圧を上げる作用や利尿を抑える作用などで知られていますね。このAVPはオキシトシンという「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内物質に非常によく似た構造を持っています。恋人や親子同士の安心感をもたらしたり、不安を減らす働きがあるオキシトシンに対して、バソプレシンは親切心を高めたり、特に男性においては女性や家族に対する親近感や愛情を高めるとされています。  このAVPの受容体のタイプによって、性行動に違いが出てくることが知られているんです。1人のパートナーといるのが心地よいタイプなのか、それともたくさんの人と薄く浅く関係を結ぶのが心地よいタイプなのか。後者はまあ「稼ぐ人」ですよ。  遺伝的な要素も関わってきます。ある遺伝子を持っているタイプの人では、未婚率、離婚率、不倫率が高くなる。この遺伝子の持ち主は、身内にはやや冷たい行動を取りがちになるためではないかと考えられています。一方で、外づらはいい。そのため、社会経済的地位も上がりやすくなる。で、「よく稼ぐ」です。1人にこだわる気持ちが薄いからか、人脈を形成するのも得意で、その場限りの雰囲気を作るのも上手です。  そういう人を夫に選ぶことは特段に悪い選択じゃないと思うんですけど、今の不倫を叩く風潮からすると、世の中の人はあまり稼がず、貞淑な夫を望んでいるんですかね。よく稼ぎ、よくばらまく人もいて別にいいんじゃないのと思うのですけど。